「つや姫」の開発までの経緯と、品種の特長を御紹介します。
およそ百年前、米づくりに生涯を捧げた山形県庄内町の篤農家「阿部亀治」氏が、幾多の苦労の末に育て上げた稲「亀ノ尾」は、近代日本の美味しいお米の始祖となり、「コシヒカリ」や「ササニシキ」などにその良食味性が引き継がれてきました。
この「亀ノ尾」のDNAを受け継いだ「つや姫(山形97号)」は、山形県立農業試験場庄内支場(現 山形県農業総合研究センター水田農業研究所)において、平成10年から育成が進められました。
米どころ山形県が総力を挙げ、科学的総合研究のもと、品種開発チームの飽くなき探求心と10万分の1という稀有な確率で選抜され、県産オリジナル品種「つや姫(山形97号)」は誕生しました。
「つや姫」の一番の特長は、なんと言ってもその「美味しさ」です。育成地で行った食味試験でも「コシヒカリ」を上回る結果が得られました。また、食味ランキング(お米の美味しさの評価)を行っている(財)日本穀物検定協会の食味官能試験(実際に食べてみて、食味を判断する)において、外見については「艶がある」、「粒が揃っている」など、味については「甘みがある」、「うまみがある」などの評価が得られ、デビュー以降、毎年最も高い「特A」の評価をいただいております。
供試した11品種・系統の中で、「つや姫」の白さの官能値および白色度が最も高い結果となりました。なお、食味官能試験の外観(白さ)の評価結果と独自開発した炊飯米白色度評価法による測定結果(白色度)との間には有意な正の相関関係が認められました。
また、波長解析を利用した炊飯米外観色彩特性評価の結果、「つや姫」は青色の分光反射率が高い特長があり、これが「つや姫」炊飯米が白く輝く要因です。
図1:官能値(白さ)と炊飯米白色度との関係
注1) 食味試験の基準米は「はえぬき」を用いた。食味試験のパネルは山形農総研セ職員20名。
注2) 供試材料は同じ栽培条件で得られたものである。精米歩合を90%に調製して供試した。
図2:炊飯米の分光反射率
注1) 供試材料は同じ栽培条件で得られたものである。精米歩合を90%に調製した。
注2)供試品種は、全て山形県産である。
※出典:山形県農業総合研究センター「平成24年度つや姫の美味しさに関する研究成果とりまとめ資料」
味覚センサーを用いて、「つや姫」と「コシヒカリ」(山形県産)の味を測定しました。
両品種ともに、各評価項目で高い値となりましたが、「つや姫」は、甘み、旨み、旨味コクの測定値がコシヒカリよりも高いことがわかりました。特に甘みと旨みが高く、それらのバランスが良いことが、食味官能試験で「味」の評価が高くなることにつながっていると推察されます。
※出典:山形県農業総合研究センター「平成24年度つや姫の美味しさに関する研究成果とりまとめ資料」
図1:味覚センサー測定結果注
1) 供試材料は同じ栽培条件で得られたもの。供試品種は、全て山形県産。
炊飯米の「味」には複数の代謝物が関わる可能性が高いことから、国内の主要銘柄品種の炊飯米を供試し、メタボローム解析を行いました。
この結果、「つや姫」は、「コシヒカリ」と比較して旨みアミノ酸が非常に多いことがわかりました。特にグルタミン酸とアスパラギン酸については、他の食品においても旨み成分として知られており、米のおいしさに直接関わっている可能性が高いと考えられます。
※出典:山形県農業総合研究センター「平成24年度つや姫の美味しさに関する研究成果とりまとめ資料」
図3:炊飯米の旨みアミノ酸含有量(H20)
注1) 慶應義塾大学先端生命科学研究所調査
注2) 供試材料は同じ栽培条件で得られたもの
注3)供試品種は、全て山形県産
交配から10年の歳月をかけて、「見た目の美しさ」、「美味しさ」、「栽培のしやすさ」の3拍子が揃ったお米、「つや姫」が誕生しました。その特長(山形県産コシヒカリとの比較)は以下のとおりです。
品種 | 収穫時期 | 収量 (kg/10a) (比率) | 栽培しやすさ (倒伏程度) 1) | 玄米の光沢 (白度) 2) | 粒ぞろい (粒厚2.0mm以上の割合) 3) | 食味 (総合評価) 4) |
---|---|---|---|---|---|---|
つや姫 | 10月上旬 | 541 (110) | 0.4 | 17.5~19.5 | 53.4% | 0.35 |
コシヒカリ | 10月上旬 | 492 (100) | 2.4 | 16.6~19.7 | 48.2% | -0.08 |