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つや姫倶楽部:スペシャルエッセイ Vol.1 山本 益博

「つや姫」は独立心と協調性に富んだ、甘く匂い立つような現代女性です。

 江戸時代、下町ではごはんは貴重な薪を使って、朝一度しか炊き上げなかった。あとは、おむすびにしたり、茶漬けにしたりして、冷や飯を食べた。炊き立てのECO白飯は、何にも代えがたい美味しさで、有り難さをこめ、尊称をそえて御飯と呼んだのだ。だから、朝御飯、昼めし、晩めし。

 「つや姫」をその御飯でいただくと、魅力全開である。我が家では炊飯器で炊きあげ、世の常識に逆らって、蒸らしもしなければ、掻きほぐしもしない。一番美味しい最上部の御飯をそおっと装っていただく。米と空気が黄金配列にならんだ「つや姫」はやや細面のつややかな美人で、独立心と協調性に富んだ、甘く匂い立つような現代女性である。いまは、「つや姫」で晩御飯もいただけるのだ。

山形の食材の魅力

 山形といえば、さくらんぼくらいしか知らなかったわたしが、1983年、酒田のレストラン「ル・ポットフー」で地元の食材を活かしたフランス料理に目を見張った。

 鳥海山のふもとの海で獲れた岩牡蠣、庄内湾の新鮮で質の高い魚介、最上川に上ってくる鱒、さらに、その最上川上流で獲った野鴨など、岩牡蠣は生で、魚介はマリネに、鱒は蒸し煮、野鴨はポットフーにと、調理のヴァラエティ豊かな、それは見事なフランス料理だった。

 さらに、フランス料理に清酒を合わせて召し上がれと、地酒の「初孫」を勧められた。そして、野鴨には、これまた山形のワインはいかがと「アストール」の赤がグラスに注がれた。このワインがジビエの野鴨にピタリっとあって、久しく忘れられないものとなったが、後年、評判になっていた山形の「タケダワイナリー」を訪れた際、「アストール」がここのワインであったことを知り、とても因縁を感じて感慨深いものがあった。

 いまでこそ「テロワールの料理」とか「テロワールのワイン」などと言うが、その土地に根ざした、その土地ならではの、いわば風土の味わい。ただ新鮮な魚介や野菜が取れるのではなく、その恵まれた食材を守り、育て、活かすのは、人間なのだということを、山形では、近年「エコロジー」やら「環境」が問題になるずっとずっと以前から分かっていて実行してきたのである。

 3年前からは、鶴岡のイタリア料理店「アル・ケッチャーノ」のオーナーシェフ奥田政行さんに案内していただき、鳥海山の湧水からはじまり、庄内湾の海の幸、羽黒山の仔羊、そしてアスパラガス、トマトなどの野菜、果ては松露まで、地元の食材の質の高さを、奥田さんのイタリア料理を通して実感させていただいている。

 日本は島国で、海に囲まれているから、日本全国どこでも、豊かな海の幸を誇る。しかし、素材がいくら良くっても、その命を守り、育て、活かす人たちがいて、初めて食材は成仏するのだ。山形には、食材と人材の二つの材が揃っている。これで、初めて「食文化」があると言えるのではなかろうか。

山本 益弘

山本 益博(やまもと ますひろ)

1982年、「東京・味のグランプリ200」を講談社より出版し、料理を作る研究家としてではなく、“毎日、外で食べていれば食っていけるという不思議な職業「料理評論家」”を確立。
長年にわたるフランス料理を紹介する仕事が評価され、2001年にはフランス政府より「農事功労勲章シュヴァリエ」を受勲。

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